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日記(レイとエマ)

カテゴリー: エミリーの日記


それは唐突だった。


「この研究所は放棄する。君もだ」

「は?今、なんて…」

「ここを放棄すると言ったんだ」


いつものように冷静な声、眼鏡の奥の表情は見えない。
冷たい男。
あの男が内面を見せるとしたら彼の娘かおそらく亡くなったという妻だけだろう。
分かっていて彼に付き合っていたのは自分だ。


「いきなり何よ。研究も丁度軌道に乗ったところだったじゃない」

「だからだ。そろそろ…研究について嗅ぎ付ける輩が出ないとも限らない」


そう言って彼は眼鏡を指で押し上げた。


「…もう知られたというの。セキュリティは万全だったはずなのに…」

・ ・
ああいった研究だ。世間に知られたらどうなるかもわからない。
それ故そういった方面には特に気を使っていた。


「じゃあ次の研究所はどこに…」

「それは君は知らなくていい」


ーえ?


「言っただろう。君もだ、と。君と他の研究員ー私以外の全員を解雇する」


「それは、どういうー」


相変わらず彼の表情は見えない。
思わず握りこんだ拳の冷たさに自分が汗をかいていたことに気づく。


「これ以上の研究は私一人で行う、ということだ。ここから離れた場所に全てを移し、その場所で。
既に必要なものはまとめてある。連れて行くのは研究結果と…エミリーだけだ」

「そんな…!でも、エミリーの世話は…」


私は彼の部下でもあるが、それだけでなく彼の家の家事手伝いのようなこともやっていた。
たぶん世間一般で言う「愛人」のような地位にあったと思う。周囲もそう認識していたようだ。
しかし彼が自分を愛していたか、と聞かれればそれはないと断言できる。
でも、それでも。
私は彼のことを思っていたし、エミリーー彼の娘に対しても実の娘のように思っていた。


「エミリーももうシッターが必要な年じゃない。家政婦なら向こうで新しく雇う」

「……なんで」

「他に何か質問は」

「あの子には…!私がっ!必要なの!今まで面倒見てきたのは私よ!エミリーも私になついているじゃない!」


そうだ。あの子には私が必要なのだ。
だってまだあんなに小さいじゃない、男親だけじゃだめだやっぱりまだ母親が必要だ必要に決まっている私がついていてあげなきゃいけないだってあの子は


「…いい加減にしろ。エミリーはお前が捨てた娘とは違う」

「…!!!」


混乱した脳に彼の声が静かに差し込まれる。


「なんで、それを、知って…」

「素性も知れない人間を家族の傍に置くわけがないだろう。君の事はとっくに調査済みだ」


ああ、知っていたのか。彼は。

私がまだこの国に来る前のことだ。
あの頃の私は自分の研究とその成功が全てだった。そのために色んなものを切り捨ててきた。
色んなものを切り捨てて、さらなる高みを目指してこの国へやってきた。
あの頃はただ必死で我武者羅で。私を認めようとしないあの国や研究者達が嫌で逃げ出したかった。

後悔は、年を経てやってきた。
この国へ来て研究を認められ地位を与えられ充実した日々を送ることができるようになって。
この分野では天才と呼ばれる彼に出会い、彼の娘に出会い。
切り捨ててきた過去が私の胸を苛み始めたのだ。

あのとき私が研究の邪魔になると捨てた娘。
研究と渡航費用のために売りとばされた幼い子。
あの娘とは違うとは頭でわかっていながらも、ずっと私はエミリーをあの娘と重ね合わせて見ていたかもしれない。
きっと彼ーレイもそのことを知っていて、馬鹿な女だと思いながら利用していただけなのだろう。
でも…私は…



「君も私物やいるものがあればまとめておけ。ここもじきに取り壊す」

「…わかったわ」


力なくうなだれる私を横目に彼は必要な書類を揃え、扉へ向かう。
何の感慨もなく。この部屋にはもう用がないと言わんばかりに。




「今までご苦労。君は有能だったよ、エマ」


ぽつりとこぼすように一言つぶやいて彼は扉の向こうへ消えた。



それでも…私は。




「あきらめるものか…っ。今度こそ、私の…っ」




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