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前期の日記(はじまり、夜の森)

カテゴリー: エミリーの日記


「もうここにはいられない。」
パパは悲しそうな顔でこう言った。
私のせいだ。
私のせいで大好きなパパが悲しそうなのが辛かった。
「おまえのせいじゃないよ、エミリー。」
パパはそう言って私を元気付けるように笑ったけれど。
私がこんな姿だからパパがこの町にいられなくなったのは事実だろう。
この姿になってから私は外へ出たことはほとんどないし、この家のある丘は町のはずれだから大丈夫だと思っていた。でも絶対ということはなかった。
「私はここを出て別の住処を探そうと思う。
でもエミリーは…住処が見つかるまでここに避難してくれないか?」
そう言ってパパが差し出した紙は。
―招待状。島。パーティー?
「ここは世界中から色んな人が集まっているんだ。いや、人以外もいるかもしれない。
筋骨隆々の漢乙女とか不定形の妖怪やら幽霊やらしゃべる兎やら戦隊モノコスプレやらもいるって噂だよ。」
思わず声を上げて笑ってしまった。パパが言う冗談にしては妙にリアルだけど、しゃべる兎さんは昔読んだ絵本みたいでいいなと思った。
たぶん私みたいな姿でも目立たないくらいに様々な人々が集まっているということだろう。
「ここでみんなでゲームをしているんだ。エミリー、ゲームは好きだろう?」
いつもパパ相手のモノポリーはそろそろ飽きていたが、とりあえずうなずく。
「ゲームが終わる頃には住む所も見つかってるはずだよ。だからしばらく遊んでてくれないか。」
2人でいるよりも別れた方がここから逃げやすいというのはわかっていたから素直に従った。パパと離れるのは辛いが仕方ない。
この招待状の島でのゲームが終わった頃にはまた2人で元のように暮らせるだろう。

私がこまごまとした荷物をまとめ終えるのを見ると、パパは裏口の扉を開けた。
今夜は綺麗な月夜だ。
「この森を抜けたら大きな街に出る。そこの港から船に乗るんだよ。」
満月だが暗い森に入れば私の姿はそう簡単には見つからないだろう。
―遠くに人々の喧騒と怒号が聞こえる。
「私は大丈夫だ。エミリーが行ったら私もすぐに逃げる。」
そう言ってパパは私の額にキスをしてくれた。
「さあ行っておいで、エミリー。私の可愛い娘。」
そして。

バタン、と扉の閉まる音。

喧騒。

怒号。

満月の皓々と照らす道。

そびえる黒い森。








バタン、と扉を閉めるとレイは荷造りを始めた。
時間がない。
家の正面の扉もそろそろ破られた頃だろう。幸いにまだこの裏口のある小さな部屋は見つかっていないようだが。

小さな町の人々は善良だった。
しかし度重なる魔物の襲撃に町の人々は怯え、その恐れはよそ者で変わり者の研究者に向けられた。
彼が娘を失い、蘇らせる研究を始めた頃に丁度魔物が現れ始めたのも原因のひとつだろう。
墓場をあさっている姿を誰かに見られたのかもしれない。
新鮮な死体が必要だったので彼にとっても魔物の出現はありがたいものだったが。
人々は善良で臆病で愚かだった。


ドンドン、と扉を激しく叩く音がする。
やばい。
荷物を抱え上げ急いで裏口の扉に向かう。あわてすぎたせいか足がもつれる。
―カシャン。
足がもつれ、体勢が崩れた拍子に荷物から落ちた、ものは。
レイは体勢を急いで立て直し、転がり落ちていったものを拾おうと裏口と反対方向へ駆け寄る。

『ドゴォオオオオオオオン!!』

彼が写真立てを拾い上げたそのとき。
部屋の扉は音を立てて崩れ

怒号と。

不安と。

恐怖と。

絶望が彼に雪崩れ込んできた。








木々の間から見える空が白み始めていた。
森に入って間もなく山狩りの火が遠目に見えたため夜の間は必死で駆け通しだったが、いつの間にか追っ手はいなくなっていたようだ。
今は落ち葉を踏みしめながら冬枯れの森をゆっくり歩いている。
枝や藪に引っかかったせいでエミリーの服はボロボロだ。
そろそろ大きな街へ出る頃だ。不振に思われないだろうか。

ふと、思いを巡らす。
学者肌で不器用な彼女の父親は家事もろくにできず、料理などは専ら自分が作っていたが彼一人のこれからはどうするのだろう。大いに心配だ。
家政婦でも雇えばなんとかなるだろうが、彼にそこまで考えが及ぶかどうか。
なにせ研究のことになると寝食忘れて没頭してしまうため、ろくに食事もとらないのだ。
やはり家を出る前に言っておけばよかった。今更だが。

突如、差し込んできた光に目を眇める。
森が終わっていた。
眼下に広がる街を見下ろして、彼女は深く朝の息吹を吸い込んだ。

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